大阪の「夜の街」を代表する繁華街・ミナミ(大阪市中央区)。仕事やお金、刺激や居場所を求め、各地から人々が集まる。
今年8月、新型コロナウイルスの感染拡大の「第2波」にともない、大阪府の吉村洋文知事は「感染拡大の震源地になっている」として接客や酒類の提供を伴う飲食店に休業と営業時間の短縮を要請。「ミナミが危ない」というイメージが定着してしまった。そしてこの冬、ミナミは3度目の休業、時短営業要請のただ中にある。
「震源地」と呼ばれた街を去る人も少なくないが、この街に残り、様々な思いを抱えながら働き暮らす人たちがいる。そんな人々の物語を紹介する。
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ミナミは、多くの性風俗店が集まる歓楽街の顔も持つ。中でも待機所から女性がラブホテルなどに派遣される派遣型風俗店(デリバリーヘルス)は、近年急増している。
拡大する18歳のカナさん(仮名)=細川卓撮影
美容の専門学校に通う18歳のカナさん(仮名)は飲食店のアルバイトを辞め、3カ月前からミナミの派遣型風俗店で働き始めた。お金をためて、奨学金200万円の返済に充てるという。周りにも風俗で働いている友人は多く、「軽い気持ちで」始めた。
コロナ禍の中、店長は「売り上げが減ってる」と愚痴っているが、客の中には在宅ワーク中のはずのサラリーマンも多い。「コロナ対策してると口では言っても、実際の行動は違う。人間、急には変われないんでしょうね」
夢は百貨店の美容部員だったが、先輩からは「求人がない」と聞き、自信がなくなった。心と体は疲れているが、発散する場所もない。待機所で1人呼び出しを待っていると、「何してんのやろ、私」とふと考えてしまうことがある。
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ミナミの中心を東西に走る周防町通に、1台の空車表示のタクシーが止まっていた。運転手、島田和彦さん(55)は、通り過ぎていくミナミの街を横目に「消費税増税に働き方改革、それにコロナでしょ。ずっと下降線や」とぼやく。
拡大するミナミの道ばたで客の乗車を待つ島田和彦さん=大阪市中央区、細川卓撮影
法定拘束時間の月299時間ぎりぎりまで働くが、売り上げは昨年比で3分の2にも満たないという。大阪市交通局の保線員として22年働いた後、警備員を経て4年前にタクシーの運転手になった。
「客商売やから自分がコロナになるのは仕方ないけど、うつさんようには気をつけてる」。長堀通で車を止め、スマホを取り出すと、昨年生まれた孫の写真を見つめる。8カ月以上会っていない。「LINE(ライン)で動画が送られてくると、涙が出そうになるわ」
ミナミの街はガラが悪いけど、どこか憎めない。そういえば最近読んだ本に、自己責任論は強者の論理とあった。「共感したね。わかりやすい悪者を作って自分のせいやと切り捨てるのは、弱い者いじめやろ」
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ミナミにあるテナントビルの一室。時計は午前0時半。パトカーのサイレン音が近づいて遠のく。静かな寝息が重なる中、小さな影がむくっと起き上がった。
「無理には寝かさないんです。帰ってからママと一緒に眠れたらと思うので」
拡大する寝付けない子ども。顔にぬいぐるみを押し当てていた=大阪市中央区、遠藤真梨撮影
認可外保育園の女性園長(28)は、スクールカウンセラーを目指して北九州から大阪の大学へ進学したが、「悩む子を教室で待つより、見つけに行きたくて」と、小学校の学童保育を経てここに来た。
預かる子の親の半分は夜の飲食…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル